2010年カンヌ映画祭報告

今年もカンヌ映画祭に行ってきました。
今回が4回目のカンヌでしたが、今回の受賞結果が一番納得のいくものでした。アピチャッポンのパルム・ドールはもちろん、グザヴィエ・ボーヴォワのグランプリ、そして何といってもマチューの監督賞。審査員賞か女優のアンサンブル受賞くらいかと思っていただけに、これは嬉しかったです。

各作品の短評はTwitterでつぶやいたので、興味のある方は過去のツイート(http://twilog.org/bazinien)をご覧下さい。ここではマイベストの10本だけをまとめておきます。

1.ミケランジェロ・フランマルティーノ『四つのいのち(Le Quattro volte)』(監督週間)[☆☆☆☆]

今年最大の発見。日本の配給会社で興味を持っているところもあると聞くので、近いうちに日本でも上映されるでしょう。キャメラは時に奇跡を作り出す。そうした有り得ない出来事が生成する場面を捉える監督こそ、特権的な才能を持った映画作家なのだろう。リュミエール的映画の奇跡が味わえる驚くべき傑作。
イタリア語の公式HP→http://www.lequattrovolte.it/
2.マノエル・デ・オリヴェイラ『The Strange Case of Angelica』(ある視点)[☆☆☆☆]
映画とは過ぎ行く時間を記録し、死者をも甦らせる力を持つ。軽やかにそうした映画の恐ろしさを表象し、メリエスに回帰してしまうオリヴェイラは映画史そのものである。恐るべき傑作
3.グサヴィエ・ボーヴォワ『Des Hommes et des Dieux』(コンペ)[☆☆☆1/2]
グランプリ受賞。1996年にアルジェリアでフランス人修道士7人が誘拐された事件を映画化。ブレッソンロッセリーニの系譜に連なる「不屈の精神(PERSEVERANCE)」を描いた、打ち震える傑作。
4.マイク・リー『Another Year』(コンペ)[☆☆☆1/2]
中年夫婦を軸に、登場人物達の感情の機微を季節の移り変わりと共に的確に描いていく。一見すると穏やかで優しいフィルムの様でいて、実際は計算し尽くされた騙し絵の様な恐るべきフィルム。パルムは逃したが、彼の代表作の一つになるだろう。
5.マチュー・アマルリック『Tournée』(コンペ)[☆☆☆1/2]
見事、監督賞受賞。期待に違わぬ素晴らしい出来。人物一人一人の感情の機微を丁寧に掬い取り、奥深い後味を残す。カンヌのコンペとしてはスケール不足は否めないかもしれないが、ユーモアと優しさと愛に溢れた佳作。
6.アピチャッポン・ウィーラセタクン『Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives』(コンペ)[☆☆☆]
アピチャッポン・ワールド全開。素晴らしいイマジネーションの広がりと映画的体験。彼の作品の中では比較的とっつき易いものだと思うが、これにパルムドールをあげたティム・バートンは本当に偉い。
7.ディエゴ・レルマン『The Invivible Eye』(監督週間)[☆☆☆]
学校という内部で生きる女性の孤独と抑圧された性を、軍事独裁末期の閉塞した社会という外部と通低させつつ描き出す巧みさに舌を巻く。『ある日、突然』から数年で、これほど重厚で成熟した作品を撮れる力量に感服。
8.オリヴィエ・アサイヤス『Carlos』(コンペ外)[☆☆☆]
五時間半を全く飽きさせることの無い見事な出来。惜しむらくは、カルロスが起こした様々な事件の経緯を辿ることがメインになってしまい、彼の人物像までを丁寧に描ききれなかった嫌いがあることか。五時間半でも足りないということか。
9.Michael Rowe『Año bisiesto』(監督週間)[☆☆☆]
今年の監督週間はなかなかのセレクションだったと思うが、中でも異彩を放っていたのが、メキシコ映画の二本。孤独な女性のエスカレートする性欲を描いたこのフィルムはカメラドールを受賞。もう一本のJorge Michel Grau『Somos lo que hay』は、父親を失って途方にくれる食人家族の話。二本とも展開には唖然とさせられるのだが、人物描写が丁寧だし、画面作りも才気が感じられて引き込まれる。やはりこれはレイガダスが拓いた地平なんだろうか。
10.グレッグ・アラキ『Kaboom』(コンペ外)[☆☆☆]
ドラッグ入りのクッキー食べちゃうあたりは相変わらずなのだが、全編を通してスピード感や画面作りのセンスの良さが光り、文句無しに面白い。ある意味『キッスで殺せ』のリメイク。