デセイのルチア@バスチーユ

transparence2006-09-25

ドニゼッティ(1797-1848)「ランメルモールのルチア(Lucia di Lammermoor)」
指揮/エヴェリーノ・ピド(Evelino Pido)
演出/アンドレイ・セルバン(Andrei Serban)
ルチア(Lucia)/ナタリー・デセイNatalie Dessay
エドガルド(Edgardo)/マシュー・ポレンザーニ(Matthew Polenzani)
アルトゥーロ(Arturo)/サルヴァトーレ・コルデッラ(Salvatore Cordella)
エンリーコ(Enrico)/ルドヴィク・テツィエール(Ludovic Tezier)
ライモンド(Raimondo)/クワンチュル・ヨウン(Kwangchul Youn)
アリーサ(Alisa)/マリー=テレーズ・ケレル(Marie-Therese Keller)
ノルマンノ(Normanno)/クリスティアン・ジャン(Christian Jean)
オペラ・バスチーユの今シーズン開幕を飾るのが、ナタリー・デセイがタイトル・ロールを歌う「ルチア」の再演。二度の手術を経て、三年ぶりにバスチーユの舞台に上がるとあって、客席は連日満員とのこと。
幕が上がると、半円形の体操場のような装置に、縄や吊り輪が垂れ下がっている。一見兵舎のようだが、小さな窓が高い位置に置かれていることから、監獄や精神病院をも思わせる。そこで展開される演技は空間的かつアクロバティックなもので、歌手たちは多くの動きを要求されていた。ルチアをシーソーに乗せたり、縄に絡ませるあたりの演出は、主人公の置かれた状況を際立たせていて、一定の効果を挙げていたが、その一方で結婚初夜のルチアの様子を、スローモーションの演技で見せるといった試みからは陳腐さしか感じられなかった。全体的に無駄な動きが多いのが気になる。ルーマニア出身の演出家セルバンはウィーンやロンドン、NYでもオペラ演出を手掛け、パリでも昨シーズンの「オテロ」を始め、多くの舞台を手掛けている。特に新奇なこともないのだが、ちょっとごちゃごちゃとした舞台で、音楽に集中しきれないのが難点か。
歌手陣では、やはりデセイの技巧と表現力が見事であった。ブランコに乗ったり三段ベットの上で歌ったりと、難しい演技を要求されていたが、どれも難なくこなしていた。ただ、明るいお転婆娘といった性格が前面に出ていたせいで、ルチアの持つ凄みのある暗さや悲壮感が表現しきれていないのが気になった。
男声陣では、ポレンザーニがメリハリの利いた美声を聴かせて秀逸。バイロイトでのヴォータンが忘れ難い韓国人バス、クウンも豊かな表現力で喝采を浴びていた。ピドの指揮は職人的な安定感のあるもの。既にデセイとこのオペラを録音(ただし仏語版)していることもあり息も合っていた。それから、「狂乱の場」ではオケにグラス・ハーモニカが加わっていた。ルチアの精神錯乱を際立たせる試みとしては面白いと思うが、実際に効果を挙げていたかは少々疑問。