サル・プレイエル、再オープン

transparence2006-09-14

国立パリ管弦楽団&合唱団 @サル・プレイエル
クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)
シモーナ・サトゥロヴァ(ソプラノ)
藤村美穂子(メゾ・ソプラノ)
マーラー交響曲第二番「復活」
今年のパリの音楽シーズンが開幕した。最大の話題はサル・プレイエルが改装工事を終えてリニューアル・オープンすること。1927年10月にオープンした、フランス有数のピアノ・メーカーの名を冠するこのホールはシャンゼリゼ劇場と並ぶ、パリ随一のコンサート・ホールだが、1998年に持ち主であったクレディ・リヨネ銀行の経営不振を受けて一個人に売却される。そして2002年秋以降、工事の為に閉館されていた。それが、この度三度目の改装工事を終え、再オープンを迎えた。工事の結果、2370席あった客席は1913席に減らされ、音響面も大きく改善されたという。
ホールに入ってみての第一印象は明るいこと。以前のホールは紺色の座席で、壁面は黒。客席の照明も薄暗い印象があった。それが深紅の座席に替えられ、白い壁と床の木が全体的に明るい印象を与える。座席配置の最大の変更は、舞台後方に客席が設けられたこと。この日は三階席後方に座ったが、座席そのものの幅が広くなっただけではなく、前の座席との距離も多少広くなったようだ(以前はかなり窮屈だった)。また、傾斜も急になったようで、前の人の頭が邪魔に感じることは全く無くなった。かなり快適度は増したと言えるだろう。座席数が二割減っただけのことはある。
再オープンを記念するコンサートの曲目は、やはり「復活」。エッシェンバッハは例によって「俺様のマーラー」とでも呼びたくなる、個性の強い演奏を引き出す。クレッシェンドの引き伸ばしなどは独特で、好き嫌いは別れるかもしれないが、個人的にはとても面白く聴いた。パリ管は金管楽器を筆頭にパワフルな演奏を聴かせ、モガドール劇場(オペラ座近くのミュージック・ホール)での四年間の不遇であった仮住まいを終え、ようやく本拠地に戻ってきた喜びを表出させるかのような力演だった。
バイロイトドレスデン、そしてパリと最近すっかり藤村美穂子の「追っかけ」と化しているのだが、この日も彼女は豊かな低音に支えられた表現力に満ちた歌唱を聴かせていた。
気になる音響の方だが、低音部の響きが増したことが一番印象に残った。元々よく響くホールではないのだが、工事を経て明瞭さが増し、ある意味でごまかしのきかない音響になったように思う。柔らかな響きのようなものはあまり無いが、直接的に響くダイナミズムには事欠かないだろう。以前は三階席で聴いていると、演奏によっては舞台の遠さのせいもあって「対岸の火事」のように思えてくることもあったが(NHKホールでのように)、今回音量そのものが増したこともあり、そうした印象は払拭された。
シャンゼリゼ通りを挟んで、徒歩15分ほどのモンテーニュ通りに建つシャンゼリゼ劇場も昨年の工事で音響面が改善されたので、これで益々パリでオーケストラを聴く環境が整ったと言えるだろう。東京と違い、音楽ホールの不足がしばしば話題に上るパリだが、2012年までにラ・ヴィレットの音楽都市に2000席のオーディトリアムが、これから始まるラジオ・フランスの大改装工事では1500席のホールが新設されるとのこと。