ジョージ・キューカー!

ジョージ・キューカー『有名になる方法教えます(It sould happen to you)』(1954)[☆☆☆☆]@シネマテーク・フランセーズ
ジョージ・キューカー『魅惑のパリ(Les Girls)』(1957)[☆☆☆☆]@シネマテーク・フランセーズ
シネマテークではジョージ・キューカー特集。作家として認められにくい映画監督を作家として認知させることが作家主義であるとすれば、しばしばハリウッド全盛期を支えた最高の「職人監督」と見なされるキューカーを見直すことは、ルノワール、サーク、ロッセリーニ、マン、フライシャーと続いてきたシネマテークでの回顧上映の中でも、最も作家主義的な特集の一つと言えるのかもしれない。キューカーのデータを検索していたら、次のような記事にぶつかった。「彼の作品には作家の個性というものがない。彼にとって監督の役目は、脚本を見てそれを面白い作品に仕上げること、それだけだった。(中略)キューカーは教科書通りに映画を作ることができる大職人だったのである」。(「週間シネママガジン http://cinema-magazine.com」より)
昨日今日と三本の「個性に満ちた」フィルムを見たことで、上記のような記述が完全な誤りであることを確信した。スクリューボール・コメディの傑作『ボーン・イエスタディ』では、何よりもジュディ・ホリディの野放図な演技が素晴らしいのだが(オスカー受賞も納得)、ホテルのスィート・ルームを自在に使いこなす演出にも舌を巻く(流石はルビッチの弟子!)。フィルムの中盤、ジュディ・ホリディが夫役のブロデリック・クロフォードとポーカーをする場面の、台詞を排し役者の表情だけを長回しで見せる演出の見事さにも驚愕した。ウィリアム・ホールデンがホリディにアメリカ的民主主義を教育するという物語の説教臭さが鼻につくのが唯一の難点。
『有名になる方法教えます』は、売れないモデルのジュディ・ホリディが広場の大看板に自分の名前の広告を出したことで一気に有名人になってしまう、というコメディ。デパートの御曹司やテレビ司会者がセレブやテレビの浅薄な世界を体現するのに対して、ジャック・レモン演じるドキュメンタリー監督を通じて、映画への愛情がフィルムに満ち溢れていくのを見ているだけで幸福な気分になってしまう。
『魅惑のパリ』は、ジーン・ケリーと三人のダンサー一座の物語。一人のダンサーが書いた自叙伝がもとで名誉毀損の裁判が起こり、それぞれが証言台に立つ。物語構造はほとんど『羅生門』なのだが、黒澤の場合は真実は「藪の中」へと紛れ込むのに対して、キューカーの場合はそれぞれの回想が嘘と真実を含んでいて、そこから人生を肯定する明るさが導き出されている。色彩感豊かな装置や、ダンスシーンを含めて見どころは多く、これもまた幸福感に包まれる傑作。