2007年3月の観た&聴いた

transparence2007-04-01

《映画》
ルイス・ブニュエル『哀しみのトリスターナ』(1970)[☆☆☆]@シネマテーク
カトリーヌ・ドヌーヴ特集@シネマテークより。上映後のティーチ・インに登場したドヌーヴは、大女優の貫禄を見事に漂わせ、ファンの可笑しな質問も余裕でかわしていた。「単なる美人の女の子としてではなく、一人の女優として私を見てくれたのはジャック・ドゥミが初めて」と述べ、「テシネとの関係はドゥミよりも親密なもの」だと語る彼女は、デプレシャンの新作の撮影が始まったばかりだという。まさにヌーヴェル・ヴァーグ以降のフランス映画の「現在」を体現しつづけた存在だと言えよう。それにしても、オスカーの授賞式にはじまり、今回のシネマテーク、そしてフランス映画祭の団長としての来日と、ここ最近の彼女の露出度が高いのはなぜなのだろう。
ついでにフランス映画祭について記しておくと、今回はスタッフの一人として関わることも無く、すっかり縁も切れたので内実は判らないが、日本での公開が決定済みの作品ばかりが並んだ今年のセレクションを見る限り、この映画祭を開催する目的は大きく変化したと言えるだろう。つまり、これまでの「日本未公開作品を紹介する」という「売り込み」から、既に買い付けられた作品の「配給宣伝のお手伝い」(言わば有料試写)ということだ。場所や運営面を含めて、TIFFとの類似度が増してきたのは否めないが、フランス映画祭の最大の特徴である「映画人とファンとの距離の近さ」は保ちつつ、発展的に継続していくことを願っている。パシフィコが映画で満たされた「祝祭空間」に変貌した「横浜時代」を個人的には懐かしく思うのだが、あれはもはや「古き良き時代」の遺物となったのだろう。

・ジェローム・ボネル『J'attends quelqu'un』(2006)[☆☆☆]@Gaumont Opera Premiere
一昨年の「横浜」フランス映画祭で上映され、今夏の一般公開が決定した(つまり「売り込み」が成功した)『明るい瞳』のボネル監督の最新作。エマニュエル・ドゥヴォス、ジャン・ピエール・ダルッサンを始めとする素晴らしい役者たちを配し、田舎町で様々な人間模様が展開していく様を繊細に描き出していく。メランコリックな部分を漂わせつつも、楽天的な要素も巧みに盛り込んだ語り口は素晴らしい。
《コンサート》
チョン・ミュンフン(指揮)=フランス放送フィルハーモニー(3月2日@サル・プレイエル)
サイモン・ラトル(指揮)=ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(3月4&5日@サル・プレイエル)
クリスティアンティーレマン(指揮)=ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(3月17日@シャンゼリゼ劇場)

《オペラ》
・アレヴィー『ユダヤ女』(3月10日@オペラ・バスチーユ)
ユダヤ女』の上演はニール・シコフのライフ・ワークと言えるもの。体調不良が伝えられたが、それを全く感じさせない、思い入れたっぷりの「泣き」の歌声が見事。ラシェルを歌ったアンナ・カテリーナ・アントナッチの力強い歌声にも魅了された。
演出はピエール・オーディ。鉄骨を組み合わせた装置は、如何様にも解釈可能な中性的なもの。歌手の動かし方もシンプル。ドラマの普遍性を際立たせていて好感が持てる。一方で、奇妙なダンサーを登場させるといった意味不明な部分も見受けられた。
ダニエル・オーレン指揮のオケ&合唱も大健闘でフランスのグランド・オペラを堪能させてくれた。

《バレエ》
・『ドン・キホーテ』(3月1日@オペラ・バスチーユ)
・『歌舞伎パリ公演』(3月27日@オペラ・ガルニエ)
歌舞伎はバレエか? でも、パリ・オペラ座のプログラムではバレエの部門に分類されているのです。まあオペラでも無いしねえ。数ヶ月前からチケット争奪戦が繰り広げられ、なかなかの人気公演となっています。ちなみに役者陣は一週間以上前からパリ入りしているらしく、私のバイト先でもある日本食品店には海老蔵が「おーいお茶」を買いに来ました。
・『プルースト、あるいは心の断絶』(3月31日@オペラ・ガルニエ)