2007年4月の観た&聴いた

transparence2007-05-01

《映画》
ジャック・リヴェット『Ne touchez pas la hache』(2006)[☆☆☆1/2]@Gaumont Opera
リヴェットの新作は三度目のバルザック作品の映画化。原作の一節を取り入れながら、ある男女の駆け引きにおける高貴さと、そこに潜む野性味とが、時に繊細に、時に粗暴に描き出されていく。ジャンヌ・バリバールが男を狂わせる女(ファム・ファタル)から、男に狂う女への変容を見事に演じきって秀逸。
宮崎吾朗ゲド戦記』(2006)[☆1/2]@MK2 Bibliotheque
フランスでは学校のバカンス期に合わせて公開されたようだが、説明的な台詞の積み重ねでアイデンティティーにおける「光と影」を描いてしまっているだけに、子どもには難解すぎるだろう。ジブリ・スタッフの画面造形の卓越には感心するものの、主人公を父殺しへと至らしめた「影」の部分がきちんと描かれないままに物語が展開してしまうので説得力に欠ける。父宮崎駿の「シュナの旅」を映画化するという挑戦心は買うものの、残念ながら父にはかすり傷一つ負わせられなかったようだ。
ラース・フォン・トリアー『The Boss of It All』(2006)[☆☆1/2]@Saint-andre-des-arts
トリアーの新作は久々の「ドグマ」系。「演技すること」の二重構造が問題となっていることからも、『イディオッツ』と同じ系列に属すると言えるだろう。ただ、残念ながらこのフィルムは、『イディオッツ』のような、俳優たちの素の身体を曝け出すような高みの境地には達してはいない。
マノエル・デ・オリヴェイラ『Belle toujours』(2006)[☆☆☆1/2]@MK2 Heutefeuille
フランス映画祭でも上映されたオリヴェイラの新作は、ブニュエル『昼顔』へのオマージュ。パリの風景を精妙に切り取る一方、ミシェル・ピコリ演じる主人公の隠微な欲望が緻密な会話劇を通じて曝け出されていく様は見事という他無い。このフィルムには、幾つもの映画的な凄みを感じさせる場面があるのだが、例えば終盤の二人の食事場面。本質的な話には触れることが出来ず、ただ黙々と、しかも快速でフルコースの食事を平らげる二人を、ゆっくりとした間合いで残酷なまでに生々しく描写していくやり方には驚愕。
《コンサート》
チョン・ミョンフン(指揮)=グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ(4月3日@シャンゼリゼ劇場&4月8日@ザルツブルグ祝祭大劇場)
サイモン・ラトル(指揮)=ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(4月6日,7日,8日@ザルツブルグ祝祭大劇場)
リッカルド・ムーティ(指揮)=フランス国立管弦楽団&合唱団(4月14日@シャンゼリゼ劇場)
・クリストフ・フォン・ドホナーニ(指揮)=パリ・オペラ座管弦楽団(4月21日@オペラ・バスチーユ)

《オペラ》
ワーグナーパルジファル』(4月5日@バイエルン州立歌劇場)
ワーグナーラインの黄金』(4月9日@ザルツブルグ祝祭大劇場)
シャルパンティエ『ルイーズ』(4月19日@オペラ・バスチーユ)

フランス最初のヴェリズモ・オペラ(市井の人々の日常生活を描く)と呼ばれるだけあって、劇的なことは何も起こらない。両親に売れない詩人との恋愛を反対されたお針子の娘(ルイーズ)が、家を飛び出して駆け落ち同然に男と暮らし始め、ボヘミアンたちの集うモンマルトルで自由を謳歌する。そして、父親の具合が悪いと聞いて一度は戻るが、結局は口論となり再び家を飛び出す。物語はそれだけだ。
ミレイユ・ドゥランシュ(ルイーズ)とポール・グローヴス(ジュリアン)のカップルはバスチーユの巨大空間を満たすような声量には欠けるが、繊細な表現力には好感が持てた。取り分け、有名な「あの日から Depuis le jour」に始まる第三幕の二重唱は素晴らしかった。だが何よりも特筆すべきは、父親役のホセ・ヴァン・ダムの見事さ。慎ましい幸福を謳い上げる第二幕から、娘に取り残されてパリを呪う幕切れの凄みまで、奥深い感情表現は流石という他無い。
アンドレ・アンジェル演出はこの家庭劇を奇を衒うこと無く丁寧に描き出していく。地下鉄駅や屋上の装置を用いることで、パリという街自体(実はこれがオペラの主役)を効果的に取り込んでいた。指揮はこのオペラ座ではお馴染のカンブルラン。

ヴェルディシモン・ボッカネグラ』(4月26日@オペラ・バスチーユ)
簡素な装置で片付けようとする手抜き演出は相変わらず。粒揃いの歌手陣、久々のコンロン指揮は劇的高揚に満ちていて、この些か地味なオペラに重厚な力強さを付与していた。楽員がコンロンに大きな拍手を送っていたのが印象的だった。
ヤナーチェク『マクロプロス事件』(4月30日@オペラ・バスチーユ)
《バレエ》
・『シンデレラ』(4月28日@オペラ・ガルニエ)