2007年5月の観た&聴いた

transparence2007-05-13

《映画》
・Emmanuelle Cuau『Tres bien, merci』(2007)[☆☆]@MK2 Odeon
イム・サンス『古い庭園』(2007)[☆☆1/2]@Racine Odeon
ジャ・ジャンクー『長江哀歌(STILL LIFE)』(2006)[☆☆☆1/2]@Saint-germain-des-pres

今月前半のベストは文句無しにジャ・ジャンクー。ゆったりとしたキャメラの動き(冒頭の船上のショットの素晴らしさ!)、大河の風景の静謐さに魅了される一方で、破壊現場の轟音に代表される暴力性、突如現れる幻想場面には驚かされる。これほどの繊細さと大胆さを兼ね備えたフィルムと巡り会えることは至福に他ならない。
サム・ライミスパイダーマン3』(2007)[☆1/2]@Gaumont Parnasse
このフィルムを観るうちに、画面が持つ情報量の多さに疲弊させられていく。特に戦闘場面は徹底的に細部まで作りこまれていて、我々観客はそこに「映っている筈のもの」のごく僅かしか認識することはできないだろう。作り手の側も当然それは認識しているだろうし、観客をそうして圧倒しようと思っているに違いない。そうした姿勢からは、作り手の不誠実さしか感じることができないのだが。
タル・ベーラ『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000)[☆☆1/2]@MK2 Hautefeulle
細部へのこだわりという意味では、タル・ベーラの作品も同様だ。だが、タルの映像作りは情報量で圧倒するといったものとは対極にある。むしろ観客に情報を与えずに、時間の流れそのものを感じさせようとする(はっきり言って、物語はよく判らなかったし)。正直、この映画作家を私はとことん好きになれないのだが(恐らくタルコフスキーソクーロフをとことん好きになれないのと同じ理由だろう)、映画作家としてはとても誠実であると思う。ワンシーン・ワンショットを多用した白黒画面は、決して観客に「親切な」映像ではないのだが、徹底的に研ぎ澄まされた虚無が表出する瞬間があって、これだけで観るに値するフィルムであると思う。タルの新作は来週からのカンヌ映画祭のコンペに入っている。
・Sam Garbarski『Irina Palm』(2006)[☆☆☆]@Escurial Panorama
難病の孫の治療費を稼ぐ為にセックス・クラブで働くおばあちゃんの話。お涙頂戴のメロドラマなりかねないシチュエーションでありながら、それには留まらない生々しい人間臭さや可笑しさがあり、果てにはロマンスにまで到達する盛り沢山の展開は秀逸。
・マリア・デ・メディロス『Je t'aime... moi non plus』(2006)[☆☆]@Eapace St.Michel
ポルトガル生まれでフランスで活躍する女優、マリア・デ・メディロスが撮ったのは、映画作家と批評家の関係をめぐるドキュメンタリー。決して目新しい題材ではないのだが、改めて映画批評家という不思議な職業について考えさせられる。
《コンサート》
クルト・マズア(指揮)&フランス国立管弦楽団(5月3日&5月10日@シャンゼリゼ劇場)
準メルクル(指揮)、デボラ・ポラスキ(ソプラノ)&リヨン国立管弦楽団(5月13日@サル・プレイエル