フランス映画祭レポート(4)

いよいよ週末である。木金と動員的には少々寂しい結果に終わっているだけに、何とか巻き返してもらいたい。そうは思っていたものの、結果的には319席のスクリーン2は毎回8割以上埋まっていたものの、608席のスクリーン1に関しては、最初の二作品(『フランキー』『誘拐者』)はかなり空席が目立っていた。しかし、この二人の若手監督は日本の観客との触れ合いを非常に喜んでいて、満足した様子でお台場を後にしていたことは記しておきたい。
この日の最初の事件は『私の名前はヘル』の上映にゲストが来場したことだ。この日の『ヘル』の上映はスクリーン3なので、Q&Aもサイン会も予定されていなかった。しかし、お台場での上映があることを知ったサラ・フォレスティエが舞台挨拶をしたいと言い出し、それならばと監督のブルノ・シシュも来場してQ&Aを行うことになったのだ。予定外のことだけに舞台の設定や司会、通訳さんの手配などを急遽行う。
この日サラ・フォレスティエは買い物に出かけていたらしく、買い物袋を幾つも持ってお台場入り。去年のセザール賞作品『エスキーヴ』で注目された若手女優で、今回の映画祭には三本の出演作が含まれている。中でも『ヘル』は主演作だけに力が入っているのだろう。テレビや雑誌のインタビューなどを見ていると、パリの普通の女子高生といった感じで、アテンドは正直不安だったのだが、実際の彼女は気取ったところの無い気さくな女の子。しかも女優の仕事に真摯な態度で臨んでいることが伺えて、私はすっかりファンになってしまった。
小さめのスクリーン3とは言え場内は満席で、突然のゲストの登場にお客さんも喜んでいた。Q&Aも盛り上がり、二人は御機嫌でお台場を後にした。
そして、この日のメイン・イベントと言えるのが『パレ・ロワイヤル』の上映である。前売り券は既に売り切れており、スクリーン1が初めて(そして結局は映画祭中で唯一)満席になるのである。監督・主演のヴァレリー・ルメルシエが来場するとあって、今映画祭最大の盛り上がりが期待できるのだ。
ところが出発予定時間を過ぎても、六本木から連絡が来ない。痺れを切らして電話をすると、ヴァレリー・ルメルシエの集合が遅れているとのこと。結局、上映終了の30分前に六本木を出発。最低でもお台場までは20分はかかるのでかなりギリギリである。時計を睨みながら到着場所で待っていると、思ったよりも早くゲストを乗せたミニバスが到着。運転手さんがかなり頑張ってくれたらしい。ところが、プロデューサー二人の姿は見えるのだが、ヴァレリー・ルメルシエが居ない! 心配していると最後列からのっそりと起き上がる彼女の姿が・・・。どうやら彼女はこの日、疲れが出てグロッキーになっていたらしく、それで出発も遅れたらしい。よろよろと起き上がって、化粧を直し、車から出てくるが足元が頼りない。慌てて支えにいくものの、おいおい大丈夫か? こんな状態で舞台に立てるのか? この時点では正直かなり焦っていた。これはサイン会なんて無理だろう。せめて舞台挨拶だけでもして欲しい。上映終了は迫っているものの、急がせるわけにもいかず、何とか劇場のラウンジまで連れて行く。
ここで待っていたのが舞台で彼女の通訳を務めるF先生(私のフランス語の師でもある)。長年フランス映画祭の通訳を務めてきた先生と、映画祭の為に過去三回来日しているルメルシエは当然顔見知りだ。監督の体調のことを全く知らないF先生が明るく話し掛けると、知り合いがいるのに気付いたルメルシエは少し元気になったようだ。これなら舞台挨拶は大丈夫そうだ。打ち合わせもそこそこに、一抹の不安を抱えたまま登壇時間となる。
結果として、それらは杞憂であった。あれほど体調が悪そうに見えた彼女だが、満席のお客さんから拍手を浴びながら舞台に上がると、ついさっきまでの様子が嘘のようにしゃんとしたのだ。これはまさにプロ根性。恐れ入りました。
映画に対するお客さんの反応は非常に良く、Q&Aは盛り上がった。しかも、昨日の六本木とは違い、ほとんど全てのお客さんが場内に残っていたのである。これならサイン会も大丈夫だろうと思い、Q&A終了後にすかさずサイン会会場へと誘導する。ただ、さっきの様子から考えて、最後までサイン会は出来ないかもしれない。そこで、通常だとサインにお客さん自身の名前を入れて欲しい場合は、何かの紙に名前を書いておいてもらっているのだが、今回は監督のサインのみでお客さんの名前は無しということをお願いする。並んでもらったお客さんには全てサインをしてもらいたいからだ。監督にもとにかくサインのみをすれば良い旨を伝える。そして結局ヴァレリー・ルメルシエは並んでいたお客さん全員にサインをして帰ったのだ。途中疲れた様子は見受けられたものの、カメラを向けられれば笑顔を見せる、まさに女優魂を見せ付けてくれた。
やはりお客さんの反応が良かったのが嬉しかったらしく、六本木に戻る車の中では終始御機嫌で、来た時の様子が全く嘘のよう。
まあ、とにかく無事に終わってほっと一息。いよいよ明日は最終日だ。