transparence2006-05-19

ペドロ・アルモドバル『VOLVER』(2006)[☆☆☆1/2] @L'Arlequin
『オール・アバウト・マイ・マザー』で現代最高のメロドラマ映画作家の地位を確立し、『トーク・トゥ・ハー』ではメロドラマを男性主体へと転換させることに成功、前作『バッド・エデュケーション』では物語る行為そのものに自伝的要素を組み入れつつ取り組んだ。すっかり世界一流の映画作家としての地位を確立したかに思えるアルモドバルの新作は、幾つかの死を通じて母娘の過去の秘密が明かされていく物語。赤を基調とした画面作りや脚本構成の巧みさは見事と言う他ない。前半のファンタジーを交えた「濃い」作りは大作家になる前の作風を思い起こさせるし、後半の母娘の和解の物語では『オール・アバウト・マイ・マザー』へと連なる「女性映画」の到達点を示している。そういう意味では彼の集大成であると言えるし、観客の期待は全く裏切られないだろう。ラストに某大女優を登場させるあたりは本当に心憎い。ただ、カンヌのコンペという点から言えば、パルム・ドールを獲るフィルムだとは思えない。ペネロペ・クルスに女優賞というのならばあり得るのかもしれないが、このフィルムでアルモドバルは新境地を拓いたとは言えないからだ。