transparence2006-06-15

グルック「トーリードのイフィジェニー」@オペラ・ガルニエ
Krzysztof Warlikowski(演出)
マルク・ミンコフスキ(指揮)
レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル&合唱団
スーザン・グラハム(イフィジェニー)
ラッセル・ブラウン(オレスト)
ヤン・ブーロン(ピラド)
フランク・フェラーリ(トアス) 
今シーズン、ガルニエでの最後のオペラ公演は「トーリードのイフィジェニー」の新演出。ポーランド出身、気鋭の若手演出家Warlikowskiは舞台を養老院に置き換え、イフィジェニーが過去の出来事を回想するという形で物語を進める。その結果、舞台上には過去と現在の二人のイフィジェニーが同居し(一方は役者で歌わない)、元々判りにくい物語を一層混乱させてしまう。鏡や紗幕を多用した装置は面白いが、劇的効果をあげているとは思えない。とにかく演出家の意欲的なアイディアばかりが先走ってしまっている舞台で、このオペラが本来持つダイナミズムが完全に失われていた。所謂モダン演出を全否定するつもりなどさらさらないのだが、オペラ作品そのものを殺してしまうことには我慢がならない。観客の演出への批判は、カーテン・コール時の俳優たち(合唱団はオケ・ピットで唄い、舞台には多くの役者が登っていた)への壮大なブーイングに表れていた。
一方で、音楽的には非常に充実していて、特にスーザン・グラハムとヤン・ブーロンの熱唱は特筆に価する。だが何よりもマルク・ミンコフスキとレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの鮮烈なグルックには目を見開かされる気がした。