transparence2006-06-21

エマニュエル・ムレ『Changement d'adresse』(2006)[☆☆☆] @MK2 Odeon
今年のカンヌ「監督週間」で上映されたエマニュエル・ムレの長編三作目。ブロンドの美女とアパートをシェアすることになった、パリに出てきたばかりのホルン奏者(ムレ自身が好演)が主人公のコメディ。一見芝居掛かっていながらも繊細な台詞回しや、ショットの転換の古典的とさえ言える巧みさからは、この監督が映画を知り尽くしていることが良くわかる(実際監督はシネフィルらしい)。彼はロメールの後継者と呼ばれることが多いようだが、ロメールの「ありそうでありえない」人物設定よりも、「なさそうでありうる」このフィルムの人物たちの方に共感できる気がした。
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『Paris Je t'aime』(2006)[☆] @Le St-Germain-des-Pres
今年のカンヌ「ある視点」オープニング作品。パリの各区を舞台に撮られた18本のオムニバス。ガス・ヴァン・サント、ブリュノ・ポダリデス、コーエン兄弟オリヴィエ・アサイヤス諏訪敦彦といった監督の顔ぶれをみれば是非観たくなるものだが、実際はアサイヤスが短編映画の本質を理解した映画的瞬間を見せていたぐらいで、その他は「よくもまあ、これだけ出来の悪い映画ばかり集めたもの」と感心させられることしきり。ただ、映画も終わりに近づいたところで、ジーナ・ローランズとベン・ギャザラ主演の「カルチェ・ラタン編」が登場して何とか面目を保った。監督はドパルデューとなっているが、この短編の素晴らしさは俳優二人と脚本(ローランズが書いている)に拠っているのだから、これはジーナ・ローランズの映画と呼ぶべきだろう。このオムニバスの最後を飾った(?)のがアレクサンダー・ペインの「14区編」。パリに一人旅にやって来たアメリカ人の中年女性を主人公に、この街に異邦人として滞在することの感慨をしみじみと描いて好感が持てた。まあ、他の出来が悪いだけに良く見えたという事もあるだろうが。