「トロイの人々」@バスチーユ

transparence2006-10-11

ベルリオーズ「トロイの人々(Les Troyens)」@オペラ・バスチーユ
Herbert Wernicke ヘルベルト・ヴェルニッケ(原演出)
Sylvain Cambreling シルヴァン・カンブルラン(指揮)
パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団
Deborah Polaski デボラ・ポラスキ(カサンドラ/ディドー)
Jon Villars ジョン・ヴィラーズ(エネアス)
Gaele Le Roi ガエル・ル・ロア(アスカーニョ)
Kwangchul Youn クワンチュル・ヨウン(ナルバール)
Eric Cutler エリック・カトラー(イオパス)
Elena Zaremba エレナ・ザレンバ(アンナ)
ベルリオーズ最晩年の大作「トロイの人々」は、オリジナル全曲版が上演されたのが1969年(コリン・デイヴィス指揮)になってからという曰く付きのオペラ。最近はしばしば上演されるようで、バスチーユ・オペラ座柿落としでも取り上げられている。今回のプロダクションは新演出となっているが、実際は2000年にザルツブルグ音楽祭(当時のディレクターはもちろんモルティエ)で上演されたものが元になっている。ヴェル二ッケは2002年に死去しているので、実際の演出はTine Buyseが行ったとのこと。ポラスキ、ヴィラーズ、カンブルランという組み合わせもザルツブルグと同じ(ただしオケはパリ管)。
舞台装置は白く塗られた半円形の壁がベース。第一部の「トロイ陥落」では、トロイ人たちは黒い服に赤い手袋をしている。白黒赤という色彩のコントラストが効果的だ。背後に墜落した戦闘機が置かれていたり、兵士たちがマシンガンを持っていることからも、「現代の戦争」を明確に意識している様子が伺える。
この第一部は重量級の音楽が連続するので、演奏者も観客も負担は大きいが、それに見合うだけの素晴らしい上演だった。やはり特筆すべきはポラスキの強靭な歌声。バスチーユへの登場は昨シーズンの「エレクトラ」以来だが、オケの音を貫き、巨大なホール全体を満たす迫力には圧倒される。カンブルラン&オペラ管は色彩感豊かで鮮やかな演奏を聴かせていた。オケに関しては、ここ最近では一番の出来ではないだろうか。
50分の休憩を挟んでの第二部「カルタゴのトロイ人」には、よりオペラらしいメリハリがある。宮廷詩人イオパスの美しいアリアや、水夫の歌う望郷の歌などが挟み込まれながら、神々に翻弄されるティドーとエネアスの物語が力強く展開される。ティドーをはじめカルタゴの人々は青い手袋をはめており、トロイ人の赤と区別されている。だが、ティドーとエネアスの愛の二重唱の場面で、エネアスの手にはめられているのは青い手袋だ。エネアスが神のお告げに反してカルタゴに居続けてしまっていることが表されている訳だが、幕切れでメルキュールが現れて「イタリアへ!」と告げる場面で、彼はその手袋を投げ捨てることになる。
演出は比較的シンプルで好感の持てるもの。ただ、第四幕の冒頭、素晴らしい「狩と嵐」の音楽の際に、背景に都市が爆撃される映像を映し出すあたりは少々やり過ぎの感あり。まあ正直言って、わざわざパリに持ってきて再演するほどのものだとは思えなかった。
歌手陣では、二役を完璧にこなしたポラスキが大喝采を浴びていたが、その他も粒揃い。ヨウン(ナルバール)は深みのある表現を聴かせていたし、ザレンバ(アンナ)の歌声は鮮やかだった。ヴィラーズはまあまあといったところか。
二度の休憩を挟んで計5時間15分に及んだ上演で、しかも初めて観るオペラにも関わらず、聴き所満載で飽きることがなかった。プレミア上演なのに客席が満員になっていなかったのが残念だ(まあ、平日の6時開演というハンデもあるだろうが)。