カンヌ映画日誌(5)

transparence2007-05-20

この日も満員で入れない上映が続出。そんな訳で、観られたのは四本のみ。けれども、どれも粒揃いで発見の連続で、とても充実した一日だった。
・Jan Bonny『Gegenuber(Counterparts)』(2007)[☆☆](監督週間)
妻からドメスティック・バイオレンスを受ける警察官が主人公のドイツ映画。初監督作とは思えない適確な演出には感心させられるし、見応えも充分。ただ、重いテーマを重く描くということには左程の目新しさは感じられなかった。
・Lucia Puenzo『XXY』(2007)[☆☆1/2](批評家週間グランプリ)
アルゼンチンの女性監督の初監督作品。染色体異常によって性器に異常を抱えた少女の物語。正常さやアイデンティティーに関して思考を促す題材の面白さと共に、個々の人物は丁寧に描かれていて感情移入しやすいし、海辺の風景の捉え方も優れている。万人にお勧めできる佳作。
・Eran Kolirin『The Band's Visit』(2007)[☆☆☆1/2](ある視点・審査員「一目惚れ(coup de coeur」賞)
今回の最大の発見と言っても良いイスラエル映画。エジプトの警察音楽隊イスラエルを訪れるが、バスを間違えて辺境に取り残される。とにかく冒頭の、音楽隊が砂漠の中心に佇んでいるワン・ショットだけで笑えるのだ。構図内に適確に人物を配置し、人物の細かい仕種までも計算し尽くして作り上げられた映像には清々しささえも漂っている。政治絡みのユーモアも交えつつも全く嫌味にならず、絶妙のテンポ感がフィルム全体を覆っている。ほとんど何の出来事も起こらなくても面白い映画は作れることを示しえた秀作。
・ダニエル・ルケッティ『My Brother is an Only Child』(2007)[☆☆☆1/2](ある視点)
初監督作『イタリア不思議旅』(1988)以外、日本ではほとんど紹介されていないルケッティの最新作。反撥し合う兄弟の物語だが、そこにイタリアの戦後史が巧みに盛り込まれている。テーマの大きさにも関わらず、深刻になり過ぎず、大らかな明るさは失われない。題材は社会性が強いが、あくまでも一家族の物語として語られるシナリオは秀逸。