カンヌ映画日誌(6)

transparence2007-05-21

昨日とは打って変わって発見の少ない一日。ただ、個人的なこの日の出来事は、『Paranoid Park』で初めてリュミエール劇場の赤絨毯を踏んだこと。リュミエールでの上映には基本的には招待状が必要で、手持ちのポイントに応じてネットやパレ内の端末から予約しなければならない。そして、19時あるいは22時のソワレの上映にはタキシード等の正装が要求される。たかが映画一本観るのにそこまでするのか、という気はしなくはないものの、これも祝祭の一部だし、映画とその作り手に敬意を表するという意味では、まあこういうのもあっても良いだろうと思う。という訳で、カンヌ直前に急いで買った蝶ネクタイが役に立ちました。実際に歩いてみると、あの赤絨毯は結構短いものですね。
・Ramin Bahrani『Chop Shop』(2007)[☆☆](監督週間)
NYのクイーンズで働く孤児の姉弟アメリカ社会の矛盾を告発するような題材にも関わらず、悲惨さは無く、少年が懸命に生きる姿を前向きに描いていることに好感が持てる。
・Nadine Labaki『Caramel』(2007)[☆1/2](監督週間)
エステサロンに集う五人の女性たちの人間模様を描いたレバノン版『ヴィーナス・ビューティー』。
・Enrique Fernandes&Cesar Charlone『El Bano del Papa』(2007)[☆☆](ある視点)
ウルグアイの小さな街にローマ法王がやってくることをきっかけに起こる一騒動。主人公は大挙して押し寄せるであろう訪問客相手の有料トイレを作ることを思いつく。題材の面白さにも関わらず、コメディとしてもドラマとしても詰めが甘い。あからさまなスローモーションの使用も、劇的効果を高めるというよりも、むしろ逆効果。
・Jamie Rosales『La Soledad(Solitary Fragments)』(2007)[途中退出](ある視点)
マドリッドで二人の女性の孤独や運命が交差していく。フィルム全体を覆う乾いたタッチや、矢鱈な二分割画面も全く好きになれず、フィルム半ばで途中退場。
ガス・ヴァン・サント『Paranoid Park』(2007)[☆☆☆1/2](コンペティション・60回記念賞)
ガス・ヴァン・サントの新作は『エレファント』同様に、ある少年の犯罪を描く。スケーターの少年は誤って警備員を殺してしまう。彼は出来事を回想しつつ文章化していく。クリストファー・ドイルガス・ヴァン・サントと組むのは『サイコ』以来二本目)によるスタンダードの映像は極端に審美的だ。しかも、決定的に美しい場面は物語展開にはほとんど奉仕せず、だからこそ美しくもある。わずか85分の小品であり、この映画作家の最高傑作ではないのだが、書くことによって完全犯罪を成し遂げる少年の物語は、非常に緻密で完成度は高い。