カンヌ映画日誌(7)

transparence2007-05-22

カンヌ滞在も一週間が過ぎ、少々疲れ気味。この日は監督週間の『La France』が満員で入れなかったこともあり、控えめに四本のみ。そのお陰で久々にまともな夕食を取ることができた。それにしても、カルロス・レイガダスとハーモニー・コリンの新作を続けて観られるなんて、至福と呼ばずして何と呼ぼうか。
・Semih Kaplanoglu『Yamurta』(2007)[☆☆](監督週間)
母の死をきっかけに、詩人の男が生まれ故郷の村に戻ってくる。今回の映画祭で数多く見られた喪を扱ったフィルムの一つ。フィルム全体を覆う静謐さは、同じトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイランの作風を思わせる。
・Etgar Keret&Shira Geffen『Meduzot(Jellyfish)』(2007)[☆☆1/2](批評家週間・カメラドール受賞)
テルアビブを舞台に、幾つもの人間模様が交錯する。魅力溢れる愛すべき小品。
・カルロス・レイガダス『Stellet Licht(Silent Light)』(2007)[☆☆☆☆](コンペティション・審査員賞)
『Japon』(2002年カメラドール特別賞)『バトル・イン・ヘヴン』(2005年コンペティション)に続く、メキシコの鬼才レイガダスの新作。メキシコ北部で、現代文明を否定し、19世紀頃の環境で自給自足に近い生活を送るメノナイトのコミュニティーが舞台。内容はありふれた不貞の物語なのだが、厳しい戒律の下で生活する彼らの姿に寄り添うように、作品のスタイルは非常に詩的で厳格さに満ちている。日の出に始まり日没で終わる映像は、下手をすると「単なる美しい映像」としか評し得ないほどに審美的で、ぎりぎりまで研ぎ澄まされている。前二作で映像を「汚す」ことを躊躇しなかった作家だけに、今回の異様なほどの透明性には驚かされる。このフィルムでレイガダスは、タルコフスキー(しばしば彼の映画を語る際に引き合いに出された名前だ)やベルイマンの領域を突き抜け、ドライヤーやブレッソンに比類し得る「聖なる映画」作家へと到達したと言えるだろう。
ハーモニー・コリン『Mister Lonely』(2007)[☆☆1/2](ある視点)
インディペンデント映画界の「恐るべき子供」ハーモニー・コリン久々の新作は、マイケル・ジャクソンの「そっくりさん」が主人公。老人ホームで「マリリン・モンロー」と出合った彼は、彼女の誘いでチャップリンリンカーン、赤頭巾ちゃんが集うスコットランドの城館で暮らすことになる。先ずはファースト・シーンの圧倒的な美しさ。モンローをサマンサ・モートンチャップリンドニ・ラヴァンが演じるというキャスティングの妙。更には、空を飛ぶ修道女達の溢れる詩情。だが、その一方で、城館での物語展開があまりに説得力を欠いているのが残念。そのせいで、彼のこれまでのフィルムと比べると、ずっとありきたりなものに留まってしまっている。