カンヌ映画日誌(8)

transparence2007-05-23

ファティ・アキン『The Edge of Heaven』(2007)[☆☆☆1/2](コンペティション脚本賞
パルムドールとの呼び声も高かったのが、このフィルム。アキンのストーリー・テラーとしての才能が遺憾無く発揮されている。ドイツとトルコを舞台に、幾つもの人間模様が交錯しつつも、決して交わることがない。あらゆる場面が物語に奉仕しており、シナリオは隙無く構築されている。それは、このフィルムの美点であると同時に、新しい映画の在り方を提示するような可能性を欠いているという意味では欠点にもなりうると感じた。まあ、それは無いものねだりと言うべきか。
・ベラ・タール『The Man from London』(2007)[☆☆1/2](コンペティション
ハンガリーのベラ・タールの新作は、彼独特の力漲る白黒映像が堪能できる。丸々一巻を費やしたファーストショットの長回しから圧倒されるのだが、元来ストーリーを効率的に語ろうとする意図が全く感じられない上に、シムノン原作という物語がほとんど理解できない。ルノワールの『十字路の夜』と共に、難解なシムノン映画として記憶されるべきフィルム。
・ローラ・ドワイヨン『Et toi t'es sur qui?(Just about Love?)』(2007)[☆1/2](ある視点)
ジャック・ドワイヨンの娘による初監督作。郊外の高校生たちを等身大に描こうとするものの、同じ題材を扱う父ジャック(例えば『少年たち』)の足元にも及ばず。
・Pedro Aguilera『La influencia』(2007)[☆](監督週間)
Aguileraはスペイン生まれで、カルロス・レイガダスの助監督を務め、本作で監督デビュー。子供二人と共に生きる女性が、日常生活での困難に直面していく様子を静かに描く。ただそれだけでしかなく、それだけでは映画にはならない。
・吉田大八『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007)[☆☆](批評家週間)
戯曲が原作であるせいか、題材も演技もかなり濃い。好き嫌いは分かれるかもしれないが、監督の戯曲への思い入れや、スタッフ陣の丁寧な仕事には好感が持てた。