カンヌ映画日誌2009・第3日

昨日のコッポラの余韻が冷めやらないこともあり、今日も少し遅めに始動して、先ずは11時半からパク・チャヌクのコンペ作品『Thirst』を観にリュミエール大劇場へ[☆1/2]。吸血鬼になった神父が主人公のコメディーでありホラーであり、フィルム・ノワールでもあるという異色作。パク・チャヌクの魅力は、ジャンル映画のスタイルを借りながら、作家性を追及するところにあると思うのだが、今回はジャンル映画の側面が強すぎるようだ。現代作家が撮った吸血鬼映画の最高峰といえば、クレール・ドゥニの『ガーゴイル』だが、そうした作品に比べても審美性は劣るし、ファム・ファタールが出てくるフィルム・ノワールとしても雰囲気が不足している。そうした、ごった煮が力強さにつながらず、むしろ中途半端な印象ばかりが残った。
リュミエールを出たら、すぐに隣のドビュッシーに駆け込む。ある視点のアメリカ映画『Precious』(Lee Daniels)を観る[☆☆☆1/2]。これはシナリオも演出も非常によく練られた秀作。ハーレムで暮らす女性の徹底的な絶望と僅かな希望とが力強く描かれる。これを観てしまうと、昨日の『Fish Tank』がお粗末に見えてくる。
続いてはマーケット上映の枠だが、監督週間の出品作である『Humpday』(Lynn Shelton)[☆1/2]。高校時代の悪友との再会で夫婦関係がぎくしゃくするというの題材も、いかにもアメリカのインディーズといった画面作りも目新しくはない。その二人がちょっとした勢いで自作自演のポルノ映画を撮る羽目になるという話は面白いのだが。
夜は監督週間のメイン会場であるパレ・ステファニーで二本。諏訪敦彦がフランス人俳優イポジット・ジラルドと監督した『Yuki&Nina』[☆☆]とペドロ・コスタが歌手としてのジャンヌ・バリバールを追ったドキュメンタリー『Ne change rien』[☆☆☆]。
Yuki&Nina』では諏訪の役者の人間そのものに肉薄するようなスタイルが影を潜め、長回しもどこか表層をなぞるように感じられたのは、共同監督ゆえのことか。
ペドロ・コスタはバリバールを白と黒のみで表現する。白黒映画なのだから当たり前といえば当たり前なのだが、そもそも白黒といえども無数の灰色の濃淡によって成り立っているのが普通である。だが、ペドロ・コスタの画面作りは白は限りなく白く、黒は深い闇のように黒い。昨日のコッポラに続き二日続けて凄みのある白黒映像を堪能する。ただ、この類の作品としては100分というのは長すぎるきがした。
ちなみに、両方とも映画の終盤に日本が舞台となる。『Yuki&Nina』が宮崎アニメのような展開から日本に移行するのに対し、ペドロ・コスタはカフェでタバコを吸う二人の老女の画面を挿入することで日本を導入するのが面白い。
今日は5本を完走。各部門の上映も本格的に始まり、いよいよ例年のペースになってくる。