第62回カンヌ映画祭

transparence2009-05-12

ご無沙汰してます。カンヌ映画祭に合わせて、久々の更新です。
明日の映画祭開幕に合わせて、午後にカンヌ入りします。今年のコンペも強力ラインナップですね。
 * * * * 
コンペティション部門】
・『Broken Embraces』(ペドロ・アルモドバル:スペイン)
・『Fish Tank』(アンドレア・アーノルド:イギリス/オランダ)
・『A Prophet』(ジャック・オーディアール:フランス)
・『Vincere』(マルコ・ベロッキオ:イタリア/フランス)
・『Bright Star』(ジェーン・カンピオン:オーストラリア/イギリス/フランス)
・『Map of the Sounds of Tokyo』(イザベル・コイシェ:スペイン)
・『In the Beginning』(グザヴィエ・ジャノリ:フランス)
・『The White Ribbon』(ミヒャエル・ハネケ:ドイツ/オーストリア/フランス)
・『Taking Woodstock』(アン・リーアメリカ)
・『Looking for Eric』(ケン・ローチ:イギリス/フランス/ベルギー/イタリア)
・『Spring Fever』(ロウ・イエ:中国/フランス)
・『Kinatay』(ブリランテ・メンドーサ:フィリピン)
・『Enter the Void』(ギャスパー・ノエ:フランス)
・『Thirst』(パク・チャヌク:韓国/アメリカ)
・『Les herbes folles』(アラン・レネ:フランス/イタリア)
・『The Time That Remains』(エリア・スレイマンイスラエル/フランス/ベルギー/イタリア)
・『Inglourious Basterds』(クエンティン・タランティーノアメリカ)
・『Vengeance』(ジョニー・トー:香港/フランス/アメリカ)
・『Face』(ツァイ・ミンリャン:フランス/台湾/オランダ/ベルギー)
・『Antichrist』(ラース・フォン・トリアーデンマーク/スウェーデン/フランス/イタリア)

第61回カンヌ映画祭

transparence2008-06-10

カンヌ映画祭が終わって二週間が経ちましたが、今更ながら今年のご報告。
今回は12日間で55本を観ることが出来ました。ただし、この本数には途中退場8本を含みます。カンヌ以外で映画を途中で出ることは殆ど有り得ないのですが、数限りない作品が平行して上映されている(特にマーケット部門)だけに、カンヌに関しては「全くお話にならない」場合は途中退場はやむを得ません。
今年は宿泊先のネット環境が整っていた(去年は電話線すら無かった)ので、毎日のブログ更新を目指したものの、いざ映画祭が始まると、朝から晩までの映画漬けで、とてもそんな余裕はありませんでした。せめてもの罪滅ぼし(?)に、今年の私的ベスト10をご紹介。
 * * *
1.マノエル・デ・オリヴェイラ『ドウロ河』
今年のカンヌで如何なるフィルムよりも心に残ったのは、今年の12月で100歳を迎えるオリヴェイラへを称えるイヴェント(5月19日リュミエール大劇場)。ショーン・ペンをはじめとする審査員団、クリント・イーストウッドミシェル・ピコリが列席する中、オリヴェイラパルム・ドール特別賞が贈られた。私も張り切って早くから並んで、最前列から「現代映画の驚異」とも言えるお姿を拝んできました。用意してきたフランス語のスピーチを間違えて読むのもご愛嬌。手を貸そうとする周囲の人を振り切って、舞台からの階段を駆け下りていく姿が印象的でした。そして特別上映されたのがデビュー作『ドウロ河』(1933年)。瑞々しくて前衛的。『カメラを持った男』『ニースについて』と並び賞されるべき、サイレント・ドキュメンタリーの傑作です。数年前に彼のバイオグラフィーを書いた経験を持つ者としては、非常に感慨深い出来事でした。
2.ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ『Le silence de lorna(ロルナの沈黙)』
脚本賞受賞。フィルムの中盤に訪れる決定的に感動的なワンショットといい、映画的構築力の巧みさには舌を巻く。
3.ヌリ・ビルゲ・ジェイラン『Three Monkeys』
監督賞受賞。真実に触れようとしない一家の崩壊を審美的な映像で描き切る。トルコはもちろん、現代ヨーロッパを代表する映画作家の一人となったジェイランが未だにまともに公開されない(映画祭やCS放映のみ)、日本の映画環境の貧しさよ。
4.黒沢清トウキョウソナタ
ある視点部門、審査員賞受賞。弱冠、設定に無理はあるものの、静かにしかし着実に家族が崩壊していく様を映画的に見せる手腕はさすが。今年のコンペは家族の物語が多く、しかもシンガポールやフィリピンといったアジアの新潮流を優先させたせいで、コンペからは外されてしまったのだろうが、このような美しいフィルムを外すのは全く納得が行かない。
5.Jose Luis Guerin『In the City of Sylvia』
昨年のヴェネチア映画祭コンペに出ていたスペイン映画。カンヌではマーケット部門で上映。シルヴィアという女性を見つける為に、ストラスブールのカフェに座って行き交う女性達を見つめ続ける主人公。繊細な画面と音声。見ると言う行為の猥雑さが浮かび上がってくるような秀作。
6.Fernando Eimbcke『Lake Tahoe』
今年のベルリン映画祭のコンペ作品。国際批評家協会推薦で批評家週間にて特別上映された。メキシコの新星エインビッケ(『ダック・シーズン』2004)が、一日の少年の成長物語をさりげなく描く。黒画面つなぎや程よいユーモアは初期ジャームッシュを彷彿とさせる。取り分け横構図が秀逸。
7.イェジー・スコリモフスキ『Four nights with Anna』
監督週間オープニング作品。スコリモフスキ17年ぶり(!)の新作。灰色の画調、サスペンスの巧みさ、ドラマとしての完成度の高さに名匠の復活を印象付けられた。
8.アルノー・デプレシャン『Un conte de Noel(クリスマスの物語)』
この作家の集大成にして、過渡期を感じさせる。巧みに構築されたシナリオは相変わらず見事なのだが、今回は些か詰め込みすぎの感が否めず。物語的にも映像的にも、もっと余韻が欲しい気がした。
9.ローラン・カンテ『Entre les murs(クラス)』
フランス映画としては21年ぶりのパルムドール受賞。素人俳優のみ、会話シーンばかりなのに、作品全体に常に緊張感が漲っているのは特筆すべきこと。正直、審査員賞か良くてもグランプリだと思っていただけに「審査員全員一致でパルムドール」と聞いた時には驚いた。この種の映画はなかなか日本公開されないのだが、果たして今回はどうなるだろう。
10.Sergey Dvortsevoy『Tulpan』
ある視点のグランプリは、セルゲイ・ドボルツェボイ監督のカザフスタン映画が受賞。砂漠の中を馬が走り抜ける、それだけの光景を映画にしてしまう監督の才覚は相当なもの。
 * * *
その他に印象に残ったフィルムとしては、フィリップ・ガレル『La Frontiere de l'aube』(ガレル初の幽霊映画。場内大ブーイングだったが、いつものように白黒映像と音楽を堪能)、スティーヴ・マックィーン『Hunger』(カメラドール受賞。監獄の日々を静と動を巧みに使い分けつつ描き出し、主人公の肉体を聖なるものへと高めていく才能は見事)、コーネル・ムンドルッツォ『Delta』(国際批評家連盟賞受賞。デルタという場所そのものが主人公。水の映画として記憶されるべき一本)などがありました。

2007年ベスト10

transparence2008-01-10

遅れ馳せながら、あけましておめでとうございます。
2007年のベスト10を選んでみましたが、どれも秀作揃いで、結構当たり年だったという気がします。

1.エリック・ロメール『Les Amours d'Astree et de Celadon』
2.ニコラ・フィリベールかつて、ノルマンディーで
3.ヌリ・ビルゲ・ジェイラン『Iklimler(うつろいの季節)』
4.ジャック・リヴェットランジェ公爵夫人
5.カルロス・レイガダス『Silent Light』
6.ガス・ヴァン・サント『Paranoid Park』
7.ジャ・ジャンクー『長江哀歌』
8.ジェローム・ボネル『J'attends quelqu'un(誰かを待ちながら)』
9.クリスティアン・ネメスク『カリフォルニア・ドリーミン』
10.クロード・シャブロル『La Fille coupee en deux』

ロメール、リヴェット、シャブロルという三巨匠が示した成熟ぶりには驚嘆。フィリベールの新作はドキュメンタリーの新境地を切り拓く恐るべきもの。ジェイランとレイガダス(この二人のフィルムが未だに一般公開されない日本の映画環境の貧しさよ)は、それぞれのスタイルを一層研ぎ澄まし、ボネルとネメスク(処女作にして遺作)の二作は、ストーリー・テラーとしての力量に驚かされた。
ベスト10以外にも、優れたフィルムは数多くありました。特に昨年は、初めてカンヌに出掛けたこともあって、改めてカンヌ出品作のレベルの高さを感じました。

・アブデラティフ・ケシッシュ『La Graine et le mulet』
マノエル・デ・オリヴェイラ夜顔
デヴィッド・クローネンバーグ『Eastern Promises』
ファティ・アキン『The Edge of Heaven』
クリスティアン・ムンジウ『4ケ月、3週間と2日』
・ダニエレ・ルケッティ『My Brother is an Only Child』
・エラン・コリリン『迷子の警察音楽隊
・ジェイムス・グレイ『We Own the Night』

フランスの批評各誌は既にベスト10を発表しています。
カイエ・デュ・シネマ」誌
http://www.cahiersducinema.com/site.php3
「Inrockuptibles」誌
http://www.lesinrocks.com/index.php?id=38&tx_extract[notule]=207729&tx_extract[backPid]=4&cHash=c0c10fe2fb

カンヌ映画日誌(番外編)

transparence2007-06-12

カンヌで上映されたフィルムの多くは、その直後にパリでも観ることができる。
幾つかのコンペ作品は映画祭中に一般公開されるし、ある視点、監督週間、批評家週間は、そのまま再上映される。そこで、パリに戻ってから観たものをご紹介。

デヴィッド・フィンチャー『ゾディアック』(2007)[☆☆1/2](コンペティション
実在のシリアル・キラーを描くというよりも、その為に人生が変わってしまった人々に焦点を当てるという切り口が秀逸。
クリストフ・オノレ『Les Chansons d'amour』(2007)[☆☆](コンペティション
『パリの中で』のオノレの新作。『シェルブールの雨傘』の三部形式をなぞった恋愛ミュージカル。単なるロマンチックに走らず、喪失感や同性愛に焦点を当てたことは評価できるが、シナリオは少々お粗末で、物語はあまりに陳腐。パリの街頭にキャメラを持ち出し、若い男女が歌っただけでは、ゴダールにもドゥミにもなり得ないというのは当たり前の事。最近絶好調のルイ・ガレルが、現代のジャン=ピエール・レオーとなる可能性の一端を示していたのがせめてもの救いか。
・ジュリアン・シュナベール『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)[☆☆1/2](コンペティション
実話を基にした物語は素晴らしいし、驚きに値する。だが、その驚きは映画的効果によるものというよりも、出来事そのものに対するものである。ただし、端役に至るまで(例えばマックス・フォン・シドーや『ママと娼婦』のフランソワーズ・ルブラン)見事に配置された役者陣、『大人は判ってくれない』へのオマージュなど、見どころは多いし、いくつもの印象深い場面があったことも事実である。
・Cristian Nemescu『California Dreamin'』(2007)[☆☆☆](ある視点)
映画祭最終日に一回のみ上映されて、その夜にある視点部門のグランプリを受賞したルーマニア映画コソボ紛争中に国連軍を乗せた列車がルーマニアの小さな街に到着するが、駅長は書類の不備を理由に通過を許可せず、アメリカ兵たちが足止めを余儀無くされる。駅長やその娘をはじめとする、町の人たちのアメリカへの愛憎が丁寧に描かれているのだが、それがヨーロッパやアメリカと向き合うルーマニアという、グローバルなテーマへと拡大していく。しかもそれは全く説教臭くなく、自然な形で展開されていくのだ。語り口はユーモラスでありながら、重いテーマを巧みに扱い、そして結末は衝撃的ですらある。二時間半を超える長さは決して退屈ではないのだが、少々長く感じることも確か。ただ、これには理由があって、監督は昨年8月に交通事故で死亡しているのだ。その時点で作品は完成しておらず、スタッフが残されたラッシュから完成させたとのこと。27歳の才能溢れる監督が、長編第一作の完成を見ずして亡くなったのは残念でならない。
ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ『Actrices(Le Reve de la nuit d'avant)』(2007)[☆☆](ある視点)
女優ヴァレリア・ブルーニ=テデスキの監督第二作。前作『ラクダと針の穴』同様に、舞台女優が主人公の物語は自叙的要素が強い。役柄に取り付かれてしまった女優の姿が、時にメランコリックに、時にバーレスクに描かれる。
・Juan Antonio Bayona『El Orfanato』(2007)[☆☆1/2](批評家週間)
幼少期を孤児院で過ごした女性が、養護施設として再建する為に、夫と子供と共に再びそこに住み始める。だが、次々と奇怪な出来事が起こり、子供は行方不明になってしまう。『アザーズ』を思わせる、スペインのファンタスティック・スリラー。一定のホラー場面はあり、幽霊映画としてのジャンル的要請は果たしつつも、ドラマとしても緻密に構築されている。あらゆる奇怪な出来事は、全て映画内で解決され、理由付けがなされる。これほどすっきりとした気分で劇場を後にできるフィルムも稀である。
・Ernesto Contreras『Parpados azules』(2007)[☆☆1/2](批評家週間)
職場の懸賞でペアのリゾート旅行が当たった女性が主人公。彼女には一緒に行く相手が見つからず、結局、偶然であった昔の同級生(しかも彼女は彼のことを全く覚えていない)を誘うことにする。美男美女ではない孤独な二人が主役の奇妙なラブコメである。旅行前にお互いを知る為にと、二人はピクニックやダンスに出かけるものの、急接近する訳でもない。むしろそれぞれの孤独は深まっているようにさえ見える。それでも尚、お互いを求めるようになる二人を、ユーモアを交えつつも繊細且つ抑制されたタッチで描き出していく。
・Cecilia Miniucchi『Expired』(2007)[☆☆1/2](批評家週間)
イタリア出身の女性監督による長編第一作。サマンサ・モートン演じる物静かな交通指導員が、同僚の粗野な中年男性と出会うことで生き方を変えていく。特異なキャラクターの男女を率直に描き出すことで、ユーモアを含みながらも説得力のある人間ドラマとして成功している。

カンヌ映画日誌(12)

transparence2007-05-27

映画祭最終日は、授賞式とクロージング作品の他に、朝からコンペ作品がまとめて上映される。見逃したものの内、当分フランス公開されないものを二本観ることに。上映後はあちこちで解体作業が行われているクロワゼット通りをゆっくりと歩きつつ、祭りの終わりの寂しさを感じる。午後はアパートを引き払って鍵を返却。これで、45本の映画を観た(内途中退出4本)今年のカンヌ映画祭は終了。
ウォン・カーウァイ『My Blueberry Nights』(2007)[☆☆1/2](コンペティション
ウォン・カーウァイアメリカで撮ってもウォン・カーウァイ。この新作も、彼独特の映像センスが光るものの、驚きや発見は皆無。
キム・ギドク『Soom(Breath)』(2007)[☆1/2](コンペティション
チャン・チェン主演と聞いて「ハングル語を話すのか?」と思ったものの、彼の台詞は皆無。死刑囚と人妻との奇妙な恋愛物語は、あまりの不自然さに全く感情移入できず。

    • -

そして主な受賞結果は以下の通り。
コンペティション
パルム・ドールクリスティアン・ムンジウ『4ケ月、3週間と2日』
審査員グランプリ河瀬直美殯の森
監督賞:ジュリアン・シュナーベル(『潜水服は蝶の夢を見る』)
男優賞:コンスタンチン・ラヴロネンコ(『Izgnanie』)
女優賞:チョン・ドヨン(『Secret Sunshine』)
脚本賞ファティ・アキン(『The Edge of Heaven』)
審査員賞:マルジャン・サトラピ&バンサン・パロノー『Persepolis』、カルロス・レイガダス『Stellet Licht(Silent Light)』
60回記念賞:ガス・ヴァン・サント『Paranoid Park』
《ある視点部門》
作品賞:Cristian Nemescu 『California Dreamin' (Nesfarsit)』
審査員特別賞:ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ『Actrices』
審査員一目惚れ(coup de coeur)賞:Eran Kolirin『The Band's Visit』
《新人賞》
カメラ・ドール:Etgar Keret&Shira Geffen『Meduzot(Jellyfish)』(批評家週間)
特別賞(Mentions speciales):アントン・コービン『Control』(監督週間)
《監督週間》
作品賞:アントン・コービン『Control』
芸術映画賞:Lenny Abrahamson『Garage』
《批評家週間》
作品賞:Lucia Puenzo『XXY』
SACD賞:Etgar Keret&Shira Geffen『Meduzot(Jellyfish)』
《国際批評家連盟賞》
コンペティション部門:クリスティアン・ムンジウ『4ケ月、3週間と2日』
ある視点部門:Eran Kolirin『The Band's Visit』
批評家/監督週間部門:サンドリーヌ・ボネール『Elle s'appelle Sabine』

カンヌ映画日誌(11)

transparence2007-05-26

いよいよ映画祭の公式上映最終日。パレの中も閑散としている。上映数も数えるほどで、もう何を観るかで頭を悩ませる必要も無し。明日にはアパートを引き払わなければならないので、午後は荷造りと片付けに追われる。
エミール・クストリッツァ『Promise Me This』(2007)[☆☆](コンペティション
少年が山村から都会に出て、お嫁さん探しをするという物語の大枠はあるものの、とにかく全編が騒々しいリズムを伴うクストリッツァ・ワールドで満たされている。映画祭の終盤、しかも早朝八時半から観るには濃すぎるフィルム。
松本人志大日本人』(2007)[☆](監督週間)
フランスで一般公開されるかは怪しいので観ておくことに。インタビュー形式の冒頭15分を観る限り、一瞬「これは悪くないかも」と思わせたが、大日本人に変身後は単なるコントになってしまい、映画的価値は皆無となる(まあ狙いもあるのだろうが)。
河瀬直美殯の森』(2007)[☆☆](コンペティション・グランプリ)
22時半からの最後のコンペ公式上映を観るべく、リュミエールへ出かける。一階席はほぼ埋まっているが、二階席は空席が目立つ(半分以下の入り)。多くの人が既にカンヌを離れているとは言え、勿体無い限りだ。フィルムの方は、映画的な美しさを湛えた場面は幾つもあったし、深い森を映画の主人公に据えたような撮り方には好感を持った。だが、全体としてあまりに大人しく収まり過ぎているのが難点。グランプリを獲る作品ならば、もっと映画的な「力」が必要であるように思う。上映後はかなり長い間のスタンディング・オベーションが続き、着物姿の河瀬監督は満足そうな様子。監督のお子さんはすっかり寝入っていました。

カンヌ映画日誌(10)

transparence2007-05-25

カンヌでは毎日、その日のスクリーニング・プログラムが配られているのだが、今日からの残り三日間のプログラムは一枚にまとめられている。それだけスクリーニングの数が少なくなったということなのだ。マーケットは今日で終了。監督週間も批評家週間も、今日明日は受賞作品の再上映が中心となる。ただ、そのお陰で、今日以降はコンペとある視点のフィルムを集中的に観ることができた。
・ジェームス・グレイ『We Own the Night』(2007)[☆☆☆](コンペティション
『リトル・オデッサ』『裏切り者(The Yards)』と、寡作ながらも骨太の社会ドラマを作り上げてきたジェームス・グレイの新作は、ロシア系マフィアとNY警察との抗争を、その両者の狭間で生きる主人公(ホアキン・フェニックス)を通じて描く。ジャンル映画の要素を幾つも取り込み、また社会性の強い題材でありながら、これはあくまでも家族の物語なのであり、だからこそ説得力を持つ。プレス試写で大ブーイングを浴びたというが、これは全く理解不能。ちなみに、私が観たリュミエールでの午前の上映ではそこそこの拍手を浴びていました。
・ティアオ・イーナン『Night Train』(2007)[☆1/2](ある視点)
拘置所の女性看守が主人公の中国映画。今回の映画祭、女性の孤独な日常が題材のフィルムが多いのはなぜなのだろう。
Ana Katz『Una novia errante』(2007)[☆1/2](ある視点)
アナ・カッツはアルゼンチンの女性監督にして、脚本・主演もこなす。これは、旅行の途中で彼氏と喧嘩別れをしてしまい、海辺で孤独なバカンスを送る羽目になる女性の物語。
・カトリーヌ・ブレイヤ『Une Vieille Maitresse』(2007)[☆☆](コンペティション
二度目のソワレ公式上映。ブレイヤの脳卒中からの復帰第一作は『危険な関係』張りのコスチューム・プレイ。女性の欲望をテーマに、挑発的な作品を作ってきた彼女にしては、非常に大人しく、会話劇に重きが置かれているのも退屈を誘う。役者陣が粒揃いなのが救い。